クリニックのネットワーク環境の提案
はじめに
クリニック開業にあたって、開業コンサルタントの方から様々なアドバイスをいただけると思います。導入機器に関しても、様々な選択肢の中からいろいろな意見を聞けることでしょう。ただなぜかネットワークに関しては様々な選択肢がありすぎるためかどこもバラバラな提案。結構「もったいないな」と思う提案をされているケースも多いようですので、今までに感じた「こうすれば無駄がない」というチェックポイントをご紹介しましょう。本サイトの想定は、医師1~2名の小規模なクリニックです。
ネットワークを構築するうえで、考慮しておきたい要素は以下の通り。
- 電話回線
患者様からの電話を受けるために「固定電話回線」が必須であることはどなたもわかります。
ところが、「FAXをどうする」、「診療時間外の電話をどうする」、「業者からの電話をどうする」、「他医院からの電話をどうする」ということに関してバランスよく解決するにはどうしたらよいでしょうか。
- インターネット回線
クリニックで使用するインターネットは次のような用途が考えられます。
・普通の用途、ブラウザ閲覧、メールのやり取り。医師、スタッフが普通にインターネットを使う用途のことです。
・患者様へのサービスとしてのWiFiスポット
・診療予約の予約サーバの接続
・医療機器(電子カルテ、画像システムなど)の遠隔サポート、クラウド接続
・レセプトオンライン接続
- 物理的な配線
電話配線、LAN配線を後日追加することは、費用面、配線の美しさいずれをとってもマイナスです。可能な限り初期段階ですべて配線しきってしまうことが大切です。配線も「有線」。「無線」と選択肢がありますが、閲覧、メール用途は「無線で」と割り切ってしまえば気持ちが楽に。
●電話回線●
電話といえばNTTが連想されると思いますが、現在は選択肢が多様です。
しかし、このページは多様な提案を目的としていません。ずばりおすすめはNTTの「ひかり電話」です。
ひかり電話の話題に進む前に、ひかり電話を使用するための「フレッツサービス」を説明しておかなければなりませんね。
NTTが提供するフレッツサービスは、一言でいえば「インターネット」と「電話」をワンストップで提供してくれるサービスです。「インターネットと電話をワンストップ」で提供するサービスは、ほかにもau、ソフトバンク、地域CATV会社が提供していますが、あえて「フレッツにする理由」を追って紹介します。
さて、話は戻って「ひかり電話」ですが、ひかり電話にするポイントは次の2点です。
- 同時2通話分使用できる
(あえて「通話」という用語を使いました。2回線と読み替えていただいて結構です。実際のひかり回線は1本です) - それぞれ別の電話番号を付与できる
クリニックの規模にもよりますが、このひかり電話のメリットを活かし、次のように使い分けを提案します。
クリニックの公開電話番号
患者様がかけてくる電話番号です。1回線でよいでしょう。2回線あると、スタッフがその分対応に追われます。
この電話番号は「発信者番号通知」にしておきます。
FAX、同業者・業者からの着信、発信用電話番
患者様には公開しない電話番号です。医師が使用したいときにいつでも使える、比較的空いた回線として確保します。患者様へ固定電話から発信したいこともあろうと思います。他医院の医師からの電話待ちをすることもあるでしょう。番号が異なる1回線を持っておくことはとても有効です。
ところで、FAX回線を着信可能にする場合に「FAX/TEL 切替モード」の設定を忘れずに。
●インターネット回線●
インターネット回線には「フレッツ光」がおすすめです。回線スピードも、拡張性も申し分ありません。
厳密には「フレッツ光」はインターネット接続そのものを指すわけではないのですが、NTTに依頼すれば、「プロバイダ」の手続きもスムーズです。
最近、「光コラボ」と呼ばれる業者からいろいろなお誘いがあるようですが、魅力的なお誘いはぐっと我慢して、クリニックでは「拡張性」が重要になるため、できれば窓口は直接NTT営業担当者にお願いしたほうがよいでしょう。(まずは、0120-116116に電話)
それでは、まずフレッツ光の「どのプラン」がおすすめか?ずばり、こちらのリストを確認してください。オンライン資格確認・レセプトオンライン請求を意識してプランを選択しておくとよいでしょう。(IP-VPNによる接続の場合は意識必要。後述の IPSec+IKEによるオンライン接続ならどれでもよい。)
では、細かくインターネット回線について考えていきましょう。
- 普通の用途、ブラウザ閲覧、メールのやり取り
プロバイダ契約をし、NTTから提供されるルータに接続設定を行えばインターネットに接続可能です。ルータはNTTからレンタルでも、ご自身で購入されてもよいのですが、ひかり電話を導入することが前提なのでこれもNTTからのレンタルにしましょう。故障時の対応もNTTにワンストップが何かと便利です。
- 患者様へのサービスとしてのWiFiスポット
NTTの「ギガらくWi-Fi」というサービスがあります。来院された患者様の待ち時間対策にはWi-Fiフリースポットの提供がおすすめです。ご自身でこれを提供しようとすると、セキュリティー対策や、故障時の対応など、本業以外の面倒な作業が発生します。面倒な作業をNTTに丸投げできるのがベストです。
- 診療予約の予約サーバの接続
様々な診療予約機器・サービスがありますので、これは診療予約のメーカ、サービス会社等ベンダーに相談しましょう。「予約サーバを院内に設置する」、「クラウドタイプの予約システムを利用する」などの選択肢によって必要なインターネット環境も変わってきますので、クリニックのニーズに合う予約システムを選択の上、ベンダーへの早めの相談がおすすめです。
ここで一言。診療予約のために「別(光)回線を用意する必要」はほとんどの場合はありません。「予約サーバを院内に設置する場合」は外部からアクセス可能にするための特別な手続き(固定IP)が必要になるため、「プロバイダ契約」は別に必要になるかもしれませんが、だからといって「光回線」が追加で必要にはなりません。「セッション」という概念が光回線にはあり、このセッションを追加することで、予約システム用の「インターネット接続」を用意することができます。この拡張性があることが「フレッツ光」をお勧めする理由でもあります。
- 医療機器(電子カルテ、画像システムなど)の遠隔サポート、クラウド接続
電子カルテや様々な画像システムは、障害発生時や操作方法の「リモートサポートサービス」を受けられるケースがあります。この時のインフラとして光回線を使用します。具体的な接続方法はベンダーに確認が必要です。ほとんどの場合、光回線(インターネット接続)さえあれば接続が可能で、ルータの設定変更(ポートの開放)が必要になることがあります。
また、クラウドタイプの電子カルテでは、セキュリティー確保のために特別なルータを設置する場合があります。この場合でも「セッションの追加」で対応できる場合がほとんどです。
※「光コラボ」の業者ですと、この「セッションの追加」が自由にできない場合があります。もし光コラボ業者から光契約をする場合はこの点を事前に確認しておきましょう。
- オンライン資格確認/レセプトオンライン接続
フレッツ接続を利用した「IP-VPN接続」とインターネット接続を利用した「IPSec+IKE接続」のいずれでも「フレッツ光」であれば対応可能です。フレッツ光で接続する場合はこちらのリストを参照。オンライン資格確認の導入を考えるのであれば、汎用(患者サービスも含めた日ごろ使いの)用途と確実につながっていなければならない回線は別に用意しておくのも検討に値するのではないかと最近考えています。もちろん月々費用が掛かる話なのでよくご検討くださいませ。
●物理的な配線●
配線は増やせば増やすだけ費用がかさむものです。かといって、後で追加で敷設すればもっと費用が掛かりますし、場合によっては壁外に配線が露出(モールなど)し美観を損ねます。したがって、ある程度余分に敷設しておくのはやむを得ないことでしょう。
医療機器以外の、いわゆるWeb閲覧、メール送受信のためのインターネット接続は「無線化してしまう」ことで悩みが一つ減ります。
設置する機器や部屋の配置によって千差万別ですので、ここでは「配慮しておきたいこと」だけを列挙しておきます。
- まずは机、ベッド、棚などの置き場所を決める
PCの配線は机の近傍、エコー装置・心電図はどはベッドの近くかに配線があると便利。せっかく用意はしたものの、棚の裏にあったりすると使用不可になってしまいます。什器の置き場所を事前に想定したうえで配線の場所を検討しましょう。
- 配線の終端はモジュラージャックにしてもらう
各部屋のLAN配線を安価に済ませるには、ケーブルの終端を「プラグ」にして長めにケーブルを引き出しておく方法が採られます。機器の設置場所が事前に明らかであればこれでもOKですが、なるべく長めに引き出しておこうという配慮から、設置後に「ケーブルがトグロを巻く」という状況になりがちです。できれば壁面にモジュラージャックで接続できるよう施工してもらうとよいでしょう。
- 各部屋2本以上配線してもらう
2本以上配線することの第一の目的は「万が一断線したときの予備」です。突然のネットワーク接続不可が発生しても予備配線があれば安心です。確かに余分なコストはかかるのですが、診療を機器の障害で止まることのないようするためのコストとして見込んでいただきたいです。
- 意外と多く必要な電源コンセントの準備
ネットワーク機器は意外と一か所に集中して設置されることが多いようです。ネットワーク機器に必要なだけ電源コンセントの準備を忘れずに。
また、見落としがちなのが停電対策で、ネットワークの停止=システムの停止です。重要な経路上にあるネットワーク機器(HUBなど)の停電対策も検討しましょう。
- 配線ラベルの充実を
配線当初はどの線がどこに引かれているか把握していても、いずれ不明になってしまうことがほとんど。業者によってはきれいにラベリングしてくれるのですが、多くの場合、線の両端に同じ番号が書いてある程度。具体的にどの部屋に伸びている配線なのかを記載しておくと、障害対応を迅速に行えるようになります。
●そのほか気づいたこと●
そのほか現場で気づいたことをいろいろメモしておきます。
- 電源コンセントは「接地極付きコンセント」に
パソコンやUPSはほぼもれなく「設置極付きプラグ」が使われています。最近のコンセントの施工ではこれが挿さるコンセントが推奨されているはずなのですが、なぜか接地極がないタイプ(2Pとか言われている)がつけられてしまうことが多々あります。
3Pである「接地極付きコンセント」を2Pのコンセントに接続するには、2P→3P変換コネクタが必要になりますし、この変換コネクタをつけることで「コンセント抜け」が発生することが多くなります。図面では接地極(アース:Earth)のマークがついていることを確認します。
- プリンタの電源系統は別系統に
パソコンの接続されるコンセントとプリンタの接続されるコンセントは別にしたほうが良いです。もう少し詳しく言うと、別の系統にするのが良いです。
掃除機やドライヤーを使ったとき、使い初めに一瞬電灯が暗くなることを経験した方もいらっしゃるでしょう(今はないかな~)。これは、動作時に一瞬大きな電流が流れ、一時的に電圧が下がるために発生します。これと同じことがレーザープリンタでは随時発生しています。(ヒーターを一定温度に保つため、モーター駆動時など)
配電盤から別系統でプリンタ用のコンセントを用意することで、他機器への同現象の影響を最小限にすることができます。
顕在化することは稀ですが、例えば無芸電電源装置を接続した場合に「電圧一定にするための切り替え動作(リレーがカチカチ)」が頻発することがあります。機器の誤動作につながる恐れがありますので、プリンタは別系統にしましょう。
- 非常時の電源を確保
大規模な災害時(地震や台風など)のときはもちろん、ちょっとした停電(近隣に雷が落ちた)などでも、電気が使えないとそれだけで電子カルテやレセコン、その他の電気を使用する機器は使えなくなってしまいます。レントゲン装置は無理としても、最低限の診療は続けられるよう、非常時の電源は確保したいものです。そんなときのために「エネファーム」を覚えておいてください。高価な自家発電装置を準備しなくても、普段遣いのエネファームで、最低限の電力確保が可能です。また、太陽光発電もプラスすることでより電力量を確保できます。
なお、あくまでも非常用ですので、プリンタなど一時的に大きな電力を消費する機器の使用はできません。また、非常時運転への切り替えが発生する場合は、サーバやパソコンへの瞬停が発生しないようUPS(無停電原電装置)の設置が必要になります。